EPA製剤は動脈硬化を抑える
オメガ3脂肪酸は魚油に多く含まれる脂肪酸で、代表的なものにEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)があります。
オメガ3脂肪酸はサプリとしても動脈硬化を予防する効果が人気ですが、どうもそういった予防効果はなさそうです(平成30年6月に紹介)。この時に高純度、高用量のEPA製剤の研究結果が待たれていると書きました。今回はそのREDUCE-IT研究の紹介です(NEJM 2018)。
対象は動脈硬化リスクが高い8179人です。この人たちにエチルエステルEPA製剤4g、あるいは偽薬を服用してもらい、4.9年観察しました。偽薬はミネラルオイルで、多施設の二重盲検法です。
この研究では、スタチン製剤でLDLコレステロールが十分に下がっている状態(75mg/dl)で、EPA製剤を追加しています。ここがこの研究のポイントの一つです。これまで中性脂肪を下げる薬で心血管イベントを抑制した薬はいくつかありますが、スタチン製剤で十分にLDLコレステロールが下がっているとその上乗せ効果が認められなくなっていたからです。なお、この研究では中性脂肪中央値は216mg/dlでした。
主要判定項目は、心血管死+非致死的心筋梗塞+非致死的脳卒中+冠状動脈再建術+不安定型狭心症です。
研究結果ですが、観察を始めて2年あたりから動脈硬化が抑制され、最終的には25%もイベントが抑制されました。これは中性脂肪低下だけでは説明できないほど良い結果です(中性脂肪低下で説明できるのは、せいぜい6-8%くらいだそうで、さらにEPA製剤がもつ抗炎症作用、抗不整脈作用を合わせても説明しきれないそうです)。
DHAを含まないEPAが良かったのか、あるいは高用量であることが良かったのか、については今後の研究が必要です。
平成30年12月3日
減量した脂肪はどこへ行く?
Q:減量した脂肪はどこへ行くでしょう?
あまり考えたことのない質問ですね。
一番多い回答は「エネルギーとして使ってしまう」かもしれません。しかし質量がエネルギーに転換される(E=mc2)と莫大なエネルギーが産生されます(原子爆弾など)。もちろんそんなことはありません。
ヒト脂肪組織の中性脂肪の平均的な組成はC55H104O6です。
C55H104O6が代謝されますと、
C55H104O6 + 78O2 → 55CO2 + 52H2O
従って10kgの中性脂肪は代謝されると、29kgの酸素と結びついて 19.6kgの二酸化炭素と9.4kgの水になります(BMJ 2014)。
肺から取り込んだ酸素を除いて計算しますと、10kgの中性脂肪は8.4kgが二酸化炭素(肺から出ていく:84%)、1.6kgが水(主に尿に出ていく:16%)に変わります。正解は「主に肺から出ていく」です。
A: 主に肺から出ていく
平成30年1月17日
トランス脂肪酸を減らしましょう
トランス脂肪酸は主に植物油を加工するときにできる脂肪酸で、LDLコレステロールを増加させ動脈硬化を促進します。たちの悪い脂肪酸で、国あるいは地域によって規制の対象になっています。
今回の話題は「トランス脂肪酸を法律で規制したら、脳心血管イベントが実際に減った」ことをニューヨーク州で観察した研究です(JAMA Cardiol 2017)。
実はニューヨーク州の全ての郡(郡:州の下位の自治体組織)がトランス脂肪酸を規制したのではありません。規制した郡もありますが、規制しなかった郡もあります。この研究は、規制した郡と規制しなかった郡で「心筋梗塞あるいは脳卒中による入院」がどのように違っていったかを比べました。
規制した郡の成人数は840万人(11郡)、規制しなかった郡の成人数は330万人(25郡)です。トランス脂肪酸を法律で規制して3年以上経過してから、有意に脳心血管イベントによる入院が減少しました。規制した郡では規制しなかった郡と比べて、
心筋梗塞+脳卒中:-6.2%(-9.2~-3.2)
心筋梗塞:-7.8%(-12.7~-2.8)
脳卒中:-3.6%(-7.6~0.4)
ほど少なくなりました。
トランス脂肪酸は、液体の油を水素添加して(半)固形にした油脂(マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなど)、またこれらを使って作られたパン、ケーキ、ドーナツ、揚げ物などに多く含まれています。我が国では、女性の24.4%、男性の5.7%が総エネルギー摂取量の1%を超え、過剰摂取と考えられています。摂取量が多いと思われる方は、どうぞ注意して下さい。
平成29年11月7日
コレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害剤と心血管系イベント(続)
少し前に、「HDLコレステロール(HDLc)を増加させるコレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害剤は心血管系イベントを抑制しない」話をしました。そして新しいCETP阻害剤アナセトラピブがイベント抑制するかもしれない話を付け加えました。今回はその続きです。
平均4.1年経過観察しました。主要評価項目はアナセトラピブ群で10.8%、偽薬群で11.8%に起こりました。中間経過時で、アナセトラピブ群はHDLcが43mg/dl高く、LDLcが26mg/dl、non-HDLcが17mg/dlほど低くなりました。アナセトラピブの効果は小さくLDLc、non-HDLcの低下だけで説明でき、HDLc増加による追加効果はなさそうです。これまでの研究との違いは参加人数が多いこと、観察年数が長いことです。今回の試験でも飲み始めて2年までは差がありませんでした。
CETP阻害剤で心血管系イベント抑制が観察されたのは初めてです。しかしその効果は9%のリスク減少に過ぎませんでした。薬効以外にも懸念があります。アナセトラピブは中止して〜5年脂肪組織に残ります。副作用が発現した場合、対応に困ります。結局、使えない薬ではないでしょうか。
注:同じ学会で、CETP阻害剤の臨床効果はスタチン(メバロチン、リピトール、リバロ、クレストールなど)が併用されていない時に強くなる可能性が発表されました(JAMA2017)。メンデルランダム化法を用いた研究です。CETP阻害剤によるLDL粒子の減少が決め手のようです。
平成29年9月13日
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追加です。
10月11日にメルク社はアナセトラピブの開発を中止すると発表しました。CETP阻害剤は、結局4つとも全部開発中止になりました。
平成29年10月13日